大判例

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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8872号 判決

原告

北川有

代理人

井上恵文

大島芳樹

被告

代表者

法務大臣

植木庚子郎

指定代理人

大道友彦

外五名

主文

被告は原告に対し金六八一万五五三四円およびこれに対する昭和四四年八月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告のその余を原告の負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

(原告)

一、被告は原告に対し金一三〇七万一三六九円およびこれに対する昭和四四年八月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

(原告)

一、事故

訴外北川俊彦は次の交通事故で死亡した。

(一) 日時 昭和四一年八月二七日午前七時頃

(二) 場所 群馬県北群馬郡榛東村山子田八幡南町二五四九番地

(三) 加害車および運転者

ハーフトラック(M3A1半装軌車)

訴外大石泰夫(陸土長)

(四) 態様

陸上自衛隊第一二偵察隊(通称相馬原部隊)の命令に基づき偵察小隊訓練中、加害車の運転者訴外大石泰夫が道路の凸凹を避けようとして運転操作を誤り、加害車を道路下5.4メートルの松林の中に転落させたため、同乗中の訴外北川俊彦が同車の下敷となり、同日午前八時一〇分頭蓋骨骨折、呼吸麻痺により死亡した。

二  責任原因

(一) 被告は、自己のために加害車を運行の用に供していたのであるから、自賠法三条により、本件事故によつて生じた訴外俊彦および原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 仮りにそうでないとしても、被告は、その公権力の行使に当つた訴外大石泰夫に陸上自衛隊の職務を行なうについて、前記過失があつたから、国家賠償法一条一項により、前同様の責任がある。

三  損害

(一) 訴外亡俊彦の逸失利益

(イ) 自衛官としての逸失利益

昭和四一年九月分から昭和四三年五月分までの同逸失利益は次のとおり四二万七五七〇円と算定される。

(年令) 事故当時二二才(昭和一九年七月四日生)

(職業) 陸上自衛隊自衛官(陸士長)

(任期) 昭和四一年四月から昭和四三年五月二五日(任期制隊員)

(俸給) 月給は一万六九〇〇円、賞与は月給の4.3倍相当額

(生活費) 衣・食・住(営舎)は無料支給なので、控除しない。

16900円×21+16900×4.3

=42万7570円

(ロ) 自衛官退職後の逸失利益

(稼働可能年数) 四〇年

(平均賃金) 一カ月五万一三〇〇円

(昭和四三年度賃金構造基本統計調査報告による)

(生活費) 一万五七〇〇円(総理府統計局昭和四三年全国全世帯平均家計調査報告による)

(中間利息の控除) 年五分の割合による四〇年のホフマン式

係数21.643

(計算)

(51300円−15700円)×12×2.1643

=924万5889円

訴外亡俊彦の相続人は父である原告および母である訴外北川シヲであるところ、原告と訴外北川シヲ間において昭和四四年八月一〇日遺産分割協議が成立し、原告が訴外俊彦の被告に対する損害賠償請求権を取得した。

(二) 原告の慰藉料

原告は、最愛の息子を二二才の若さにして失い、その悲しみは筆舌に尽しがたく、慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(三) 損害の填補 七九万二〇〇〇円

原告は、遺族補償金として被告から七九万二〇〇〇円を受領しているので、右損害額からこれを控除する。

(四) 弁護士費用 一一九万円

原告は、被告が任意支払をしないので、本訴追行を原告訴訟代理人に委任し、そのため着手金、成功報酬等の弁護士費用として一一九万円の債務を負担した。

四 よつて、被告は原告に対し一三〇七万一三六九円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年八月三一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

(被告)

原告主張一の事実を認める。

同二の事実中、被告が加害車の運行供用者であることは認める。

同三の(一)の(イ)の事実中、年令、職業、任期、俸給が原告主張のとおりであることは認めるが、生活費は自衛隊内でされる部分のみでまかなうことは不可能であるから、収入の二分の一を控除すべきである。

同(ロ)につき、原告主張の稼働可能年数、平均賃金、生活費、中間利息の控除のためのホフマン係数が原告主張のとおりであることは認めるが、昭和四三年度の統計に基づいて訴外亡俊彦の逸失利益を算定するのは妥当でなく、統計資料としては事故当時の政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準および昭和四二年八月一日以後の同基準あるいは第二〇回労働大臣官房調査部勤労統計調査(昭和四二年)によるべきである。

同(三)は認める。同(四)は争う。

第三  証拠関係〈略〉

理由

一、原告主張一の事実および被告が自己のために加害車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。そうすると被告は自賠法三条により後記損害を賠償すべき義務がある。

二、そこで損害について判断を示す。

(一)  訴外亡俊彦の逸失利益

訴外亡俊彦の年令、職業、自衛官の任期および俸給、退官後の稼働可能年数については当事者間に争いがない。

(イ)  自衛官の任期期間中については、隊内に居住し、食事および衣服が支給されることを考慮し、生活費としては収入の二〇%があてられれば十分と認められるので、次の計算のとおり三四万二〇五六円が在任期間中の逸失利益と認められる。

(ロ)  退官後の逸失利益

訴外亡俊彦が生存したものとすれば、退官後就職口を捜し、遅くとも二四才になるまでには就職し、総理府統計局第二〇回日本統計年鑑による全産業男子の新制高等学校卒の平均賃金である月四万八〇〇〇円を得ることが出来たものと認められ、その後三六年間は稼働しえたものと認められる。そして、生活費についてはその収入の二分の一があてられるものと認められる。

そこで、右期間の逸失利益の昭和四三年七月現在における現価を算出すると、次の計算のとおり四七六万五、四七八円となる。

(16.5468は、いわゆるライプニッツ方式による三六年間五パーセントの複利年金現価計算係数。いわゆるホフマン方式による右年間の係数は、20,2745であつて、これによると年五分の利息のみで逸失利益を回収し得、稼働期間を経過しても元金全額が残存することになつて明らかに不合理であるので、右方式を採用しない。〈証拠〉によると、訴外亡俊也の右遺産の相続人は原告のみであることが認められるので、原告は右訴外亡俊也の逸失利益を相続したことになる。)

(二)  慰藉料

〈証拠〉から原告は訴外亡俊彦の父であることが認められる。本件事故は昭和四一年度の事故であつて、当時の他の事故につき認容された慰藉料額との均衡、自衛隊の訓練中に生じたものであること(右事実は当事者間に争いがない)、その他本件記録上の諸般の事情を考慮すると、慰藉料は二〇万円が相当と認められる。

よつて、以上損害合計七一〇万七、五三四円となるところ、そのうち七九万円二〇〇〇円の損害の填補がなされていることは当事者間に争いがないから残額は六三一万五五三四円となる。

(三)  弁護士費用

原告が本訴追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかである。本件の弁護士費用としては五〇万円が相当と認められる。

三、よつて原告が被告に対し六八一万五五三四円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年八月三一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるので認容し、その余は失当として棄却することとし訴訟費用については民訴法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条にしたがい、主文のとおり判決する。

(坂井芳雄 小長光馨一 佐々木一彦)

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